はかば

しこうのくよう

えも言われぬエモさ

先日、寮の先輩たちと久しぶりに会った。あんなに長いこと学生生活をしていたのに働き始めてもう数年が経つことがなんだか不思議な気持ちになった。あの頃同じ時間と空間を共有していた先輩たちが、全く違う話題を口にし知りえない世界のことで悩んだり苦労をしていた。

 

その中に昔付き合っていた先輩の姿もあった。数年ぶりに見る先輩の姿は何も変わらず、整ったパーツとそれをのせるには少し広めの骨格と薄い色素が相変わらずだなあと思った。だいぶ年上のその人は今付き合っている人と結婚する予定で飲み会の隅でその話で盛り上がったりした。

低くも高くもなく通らない声も薄い唇も長い睫毛も笑ったときの鮫のような皺も、何も変わっていなかった。おどけたような口調も真面目な時の声色も、数年ぶりとは思えないほどしっくりきた。だからこそ、この人が生涯共に過ごす人は自分ではないんだとやけにはっきり自覚をした。

決して結婚したいわけでもないしよりを戻したいわけでもないし引きずっているわけでもない。心の中が穏やかだったのは嘘ではなく、かつて君と結婚したいと言ってきた相手が他の人と幸せになる姿を目の前で見てこんなにも波風が立たないものだと酔っている中でも冷静に思った覚えがある。

 

一点で交わっていた過去が少しずつ離れていき、数年の時を経てもう交わることがないと一目でわかるほど大きな開きになっていた。

それは良いことでも悪いことでも寂しいでもなくただただ目の前の現実としての実感しかなく、もはや一点で交わっていたころの思い出すら本当にあったことなのか証明できない。

でも、確かに懐かしい空気が、そこには漂っていた。