こんなにも優しい、世界の終わりかた - 市川拓司
「優しくないね」
「うん、優しくない」
この世界で穏やかに生きるのは難しい。
心の趣くままに生きるのは難しい。
多くを望まないことを許してくれない。
ぶきっちょには厳しい世界だ。
世間からはみ出た、独自の世界をもつ男の子たち
クラスの男子の視線の先にいる、きれいなおとなしい女の子
はたから見たら一緒にいるなんて信じれない、信じたくないような3人。
はみ出し者たちは社会から認められず、社会が気に入るその女の子だけが寄り添ってくれる。
女の子もまた、気に入ってくれる社会に居場所を見いだせず、そのはみ出し者たちだけが心の支え。
彼らを取り巻く世界が人々が、荒野のようにすさんでいたり、吹雪のように寒々していたり、日照りのように殺伐としていても、彼らは優しい、美しい世界に生きている。
どれだけ彼らに優しくない世界だったとしても、彼らは精いっぱい、自分らしく、そして優しさを抱いて生きている。
きっと神様は彼らのような存在なのだ。
世界から優しさがなくなる前に、この世界を優しさでいっぱいにして留めておこうと思ったに違いない。
優しさで溢れた世界では、みな穏やかに最期を迎える。
愛する人を思い、うやむやにしていた未練を拾いあげる。
無限にあると思っていた時間はもともと多くなかったのだと、いつかなどなかったのだと気づく。
お金や名声や優位性なんて、世界の終焉にあたって無価値である。
世界が終わるとき、愛だけが唯一の真実となる。
彼らは世界が優しさで溢れるまで、極寒の世界を生ききった。
ぼくの親友の最後の言葉。
「ぼくはぼくらしく生きるために戦ったよ。誰にもぼくを変えさせはしなかった。ぼくの魂には傷ひとつついていない。」
世間がどれだけ彼を抑え込もうとも、彼は彼にしか作れない彼だけの人生を歩み、優しい世界に抱かれて眠りについた。
戦争が起きることもなく、隕石が落ちてくることもなく、宇宙人が攻め込んでくることもなく、天変地異が起きることもない。
無人のコンビニではレジカウンターにお金がたまっていき、道行く人は互いに助け合う。
こんなにも優しい、世界の終わりかたがあるなんて。
p.s. はみ出し者のぼくの親友も、はみ出し者のぼくの父さんも、とっても良いこと言うんだよね。人としての面白さ(深み)って、きっとコミュニケーション力ではなくて内観力なんだろうな。