八月の終わりは、きっと世界の終わりに似ている。 - 天沢夏月
「俺はどうしたらいい、透子。」
四年前の夏のあの日から、ただ時が過ぎてゆく毎日。
彼女の死を清算できず、逃げるように東京に出たまま故郷に足を踏み入れるきっかけを失っていた。
線香をあげてやれよ。との友人からのメールで2年振りに帰ってきた町。
廃れた駅前のロッカー、何も変わらない透子の部屋。
髪に漂うせっけんの香り、キラキラしたビー玉みたいな瞳、からからと笑う声、華奢な体に触れた感触。
ソーダ味のアイス、偽ラムネ。
交換ノート。
炭酸のように湧き出てくる彼女の残り香。
断ち切ろうとしていた未練は、その努力をあざ笑うかのように、故郷に帰った途端あっという間に強く結びなおされた。
「あなたは、誰ですか?」
4年前に片翼を失った交換ノートは、ページが進むことはもうない、はずだった。
止まった時間に途方に暮れていたとき、うっかり書きこんだ問いに来るはずもない答えが書き込まれた。
4年前の俺が知らない秘密のやりとりが、始まる。
4年後の俺とのやりとりの傍らで、彼女は4年前の俺に得意気にタイムトラベルの話をする。
タイムパラドクスがあるから無理だと言われているタイムトラベルも、抜け道がいくつかあるの。
パラレルワールド説、タイムトラベルも歴史に織り込まれている説、過去不可変説。
彼女は、その話をしながら、何を思っていたのだろう。
自分の未来に、どう思いを馳せていたのだろう。
時空のゆがみが生じるストーリーがきれいに環を描く切ないお話。